まだ戦いは終わっていない。大切な人を守りたいという一心で新たな力を発動させたナルト。それは大蛇丸が探し求めていた力だった。
うちはと九尾、それぞれの力を持った少年達は巨悪の敵へと立ち向かう。二人の思いがその力をより大きくする。最後の力を振り絞り、現代の世に現れた悪を打ち滅ぼす。
騒がしかったこの場所にも静けさが戻り、戦いは終局を迎える。
時を越えた出会い 10
激しいぶつかり合いの末、ここに立っていたのは二人の少年。もうその瞳は赤から普段の色に戻っていた。
肩で息をしながら目の前で倒れている人物を見て、今度こそ本当にこの戦いが終わったのだと悟る。念の為にサスケは大蛇丸の下まで歩くと生死を確認するが、もう脈は動いていなかった。
「今度こそ、本当に全部終わったんだよな?」
「あぁ…………」
長かった戦いもこれで本当に終わりとなった。サスケが答えたのと同時に体中の力が抜けてナルトは地面に座り込む。これまでの戦いが嘘のように空はすっかり晴れていて、木々が動くのと一緒に流れてくる風の涼しさを肌で感じる。
この場所で、ついさっきまでは激闘を行っていたのだと改めて思う。この自然が壊されることなく終わらせることが出来たのは、二人が協力して大蛇丸を倒したお蔭だ。
「ナルト、お前を巻き込んで悪かった」
「そんなことねぇってばよ。それよりサスケ、怪我は……!?」
かなりの怪我を負っていたはずだと慌てて尋ねるが、サスケはまた「大丈夫だ」と返す。ナルトを庇った時に負ったこの怪我は、どうみても大丈夫だなんていえるようなレベルではない。戦いも終わったのだから早く病院に連れて行かなければと考えるナルトをサスケは制止する。何でと声を上げるよりも先に、サスケの方から口を開く。
「オレのこの身体は、一時的なものだって言っただろ」
この肉体は本当のサスケの身体ではない。今回の戦いでそれを使えることが出来たのは、かつての仲間達のお蔭だ。本来なら精神だけの存在なのだからこの程度の怪我は何の問題もない。
しかし、隣で見ていれば心配にもなる。怪我をした辺りは赤く染まっている。それに血も止まっていないように見える。これで心配をするなという方が無理な話だ。
「だけどこのままにしておくのも…………」
「ナルト」
このままにしておくのもよくないだろう、と言おうとしていたのだがサスケにそれを遮られた。その声で怪我に向けていた視線を上げるたナルトだったが、目の前の光景に青の瞳を大きく見開いた。
普段か肌が白いと思っていたけれど、今はその比ではないくらいに顔が青白くなっている。これだけ血液を流せば普通はそうなってもおかしくないが、サスケは精神体だと先程本人も言っていた。それなら、これはどういうことなのだろうか。
「サスケ、お前…………」
そのことを尋ねようとして、けれど途中で止めてしまった。そっと頬に触れた手は、前に触れた時のような温かさはなかった。
「今まで、色々と世話になった。迷惑を掛けて悪かった」
「何、言ってるんだよ……」
「だが、お前と一緒に居られて、色んなことを知ることが出来た。ありがとう」
ずっと一人だった。誰にも見えない精神だけという存在で過ごしていたところに現れた一つの光。共に過ごした時間はかけがえのないものだった。
そこには、昔仲間達と共に里で過ごしていた頃のような温かさがあった。そんなものは全て里を抜ける時に置いてきたはずだったけれど、その温かさに触れてその中で過ごす幸せを感じた。勉強をしたり出掛けたり、時に怒ったり共に笑ったりしながら過ごす楽しい日々。
あの時はそれで良いと思って捨てた。けれど、ナルトと過ごすことでそれが間違いだったと知った。こうして一緒に居られたことにサスケは感謝をしている。
「そんなこと、今言わなくても良いだろ! これからだって、ずっと一緒に居るんだろ!?」
必死に叫ぶようにナルトは言う。これはまるで、もうすぐ死んでしまうみたいではないか。
否、サスケはもう何十年も前に死んでいるのだと分かっている。けれど、ずっとここに居たんだからこれからだって一緒に居られると無意識の中で信じていた。別れが来ることなんてないんだと、そう思っていた。
だから、サスケが居なくなるなんて信じたくなかった。今まで家では一人きりだったナルトは、サスケと共に過ごそうと言ったあの日から離れることはないと信じていたから。二人で過ごす幸せを知ってしまった。この温かさを手放したくなかった。
現実に起ころうとしていることを否定して欲しい。けれど、現実はそう甘いものではない。優しく微笑んだサスケに、ナルトの頬に一筋の涙が流れ落ちた。
「オレは、元々この時代の人間じゃない。本当なら、今もこの場に居ない筈の人間だ」
「でも、サスケはオレと一緒に居たじゃねぇか。オレはサスケがちゃんと存在してること、知ってるってばよ!」
「お前がそう言ってくれるだけで、もう十分だ」
「オレは全然良くないってばよ! お前が居なくなったら、オレはまた一人に…………」
「すまない、ナルト」
一人だったのはどちらも同じ。どうせ一人でいるのなら一緒に居た方が良いとナルトが話したのが切っ掛けとなり、今の二人が在るのだ。
けれどこればかりはどうにかしようとして出来ることではない。サスケはただ謝罪の言葉を述べる。辛いのは一人だけではない。二人で築いてきた絆があって、ずっと一緒だと思っていただけに辛いと思っているのは二人共なのだ。
そっと涙を拭うサスケの手が少しずつ透けていく。それが時間が迫っていることを否が応でも知らせている。
「オレの方こそ、迷惑掛けてばっかでごめん。お前と居られて、凄く楽しかったってばよ。ありがとな」
伝えたいことは沢山ある。けれど時間はそれを許してくれない。だから、今伝えられるだけの言葉に目一杯の気持ちを込める。
サスケの身体が透明になっていくのにつれて、優しい光が二人を包む。温かな光の中は二人だけの空間。
「ナルト、オレはお前が好きだ」
いつからか抱いていた気持ち。別の時代の人間で決して結ばれることはないと知っていたから、本当は伝えるつもりはなかった。けれど、これが最後だからと言葉にする。後悔はしたくなかったから。
それを聞いたナルトは、一瞬驚いた表情を見せながらもすぐに柔らかな笑みを浮かべる。瞳にはまた涙が滲む。
「オレも、サスケのこと。好きだってばよ」
今度はサスケが驚かされる番だった。まさかそんな返事がくるとは思っていなかった。
そう、ナルトも同じ気持ちを抱いていた。一緒に過ごしているうちに生まれた感情。けれど二人の間には様々なものがあって、一緒に居られるのならそれで良いと内に秘めていた気持ち。
両思いだったんだと分かり嬉しい半面で、もう別れなければいけないことが余計に辛くなる。涙を拭う為に伸ばしていた手をそのままに、サスケはそっとナルトに口付けた。初めてのキスはとても優しくて、温かくて、儚かった。
「元気でな」
ふわり。穏やかな笑みを浮かべると、光は一層強くなった。
暫くして光が消えたかと思うと、傍にあったはずの温もりはなくなっていた。そこにあるのは沢山の自然と、木ノ葉の里で英雄と呼ばれた忍の名が刻まれている慰霊碑だけ。
「サスケ…………」
木ノ葉の忍だったというサスケ。出会ったのはほんの偶然。あの日、何かに呼ばれるように向かった先にあったのがこの慰霊碑だった。
そこで初めて出会い、一緒に暮らし始めて、大蛇丸と会ったのもこの場所だった。初めて大蛇丸と戦った時、サスケはこの慰霊碑に刻まれている仲間が力を貸してくれたと言った。そして今日も、その仲間達がサスケに力を貸してくれていたことはナルトも知っている。
ナルトは慰霊碑の前まで歩いて行くと、そこに連ねてある名前を辿っていく。抜け忍であるサスケの名前は当然ないが、サスケが里に居た頃の仲間達の名前は残っている。
それが誰かなどナルトには分からないけれど、この中の誰かはサスケの大切な仲間。ここに書かれている人達が今の木ノ葉の元を作ってくれた人の名であるということは知っている。
「ありがとう」
今平和に暮らせているのはこの人達のお蔭だ。現代の世を脅かす人を倒すことが出来たのも、ここに書かれているサスケの仲間のお蔭。そして、ナルトとサスケを巡り合せてくれたのもこの慰霊碑。
全てに感謝をしながらその言葉を告げる。ここに名前はないけれど、ナルトにとって一番大切な人にも感謝の気持ちを込めて。
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