二人で共に戦おう。そう誓い合い、いよいよその時がやってきた。
 絶好のコンビネーションで大蛇丸に立ち向かうが、幻術によってダメージを受けたナルトは暫し休息をとる。そして、大蛇丸とサスケの激しい忍術と忍術の打ち合い。飛び交う忍具、ぶつける体術、忍として出せるものを全て出して繰り広げられる戦い。
 激しい戦いが、この現代の木ノ葉で行われていた。



 




 どちらも引かない攻防戦。その二人の間に実力差というものはあまり感じられない、というのは傍から見ていたナルトの意見だ。忍というものをこの二人以外に見たことなどないのだからあくまでこの時代の一般人から見た意見でしかないけれど。
 両者共に凄いということは最初から思っていた。しかし、これでもサスケに教わりながら色々なことを学んできた。この状況を見ていると、二人の実力は変わらないような気がする。


「どういうことなの」


 思わず零れた本音。時代が変わったからといって大蛇丸はずっと忍だ。敵が居なくなれば戦う数も減り、実力は当時よりも落ちているのは無理もない。
 今の体も転生術で手に入れたもの。忍が居ないのだから一般の人間の体を手に入れる他なかったとはいえ、それでもこの体で戦うことが出来るようにはしてあった。それなのに、あの頃あったはずの実力差はどこにいったのだろうか。


「アンタも時代の流れには逆らえないようだな」


 ナルトの傍に着地をしたサスケは、まだ息が乱れていない。一方で、大蛇丸は少し苦しそうな表情を見せる。二人の戦いを見ながらナルトが感じていたことは正しかったのだ。


「オレはこの間アンタに会った時からアンタを倒す為に修行をしていた。そもそも、あの頃も実力差はそこまで大きかった訳ではない。それに、アンタの元に居たお蔭で分かっていることもある」

「イタチを倒す為の力がなかったから私に体を差し出したアナタが言うことかしら。自分の力では無理だから私の力に頼ったんじゃない、サスケ君」


 なぜサスケが大蛇丸に体を渡したのか。それは一族を滅ぼした兄に復讐をする為。大蛇丸はサスケの体を欲し、サスケは力を求めていた。自分の力で倒せるのであればそれを許したりはしないだろうに、大蛇丸は転生を果たしている。大蛇丸の言っていることは正論なはずなのだ。
 時代の流れ。忍の頃と変わらぬ体を持つ者とそうでない者。いくら修行をしたといっても数週間で出来ることには限度がある。それなのに、現状は当時の実力差なんて無意味となっている。


「あの時、アンタに体を差し出したのが間違っていた。もうオレは過ちを犯さない」


 仲間の言葉を聞かなかった。あの時はそれが自身の目的を果たす一番の近道だと思っていた。けれど、その先にあったものは……。
 あれからずっと木ノ葉の様子を見てきた。一度は裏切った里。けれど、大切なものを守りたいと思う気持ちは昔と変わらない。復讐ばかりに気を取られて気付けなかった大事なこと。もう分かったのだ。そして、かつての仲間と約束をした。


「必ず、木ノ葉を守る!」


 この里を、町を。それから大切な人を守り通す。
 言い切ってサスケは新たに印を結ぶ。術を発動させると同時に死角からも攻撃が襲ってくる。双方から襲い掛かる攻撃は二人によるもの。
 続けてサスケが結んだのは、丑、卯、申。目に見えるほどのチャクラが左手に集まっていく。赤い瞳が光ると一直線に動き出す。一本の光は大蛇丸を貫く。


「これで最後だ。木ノ葉崩しは失敗に終わった」


 勝負はついた。長かった戦いもこれにて終止符が打たれる。この二人を甘く見ていた大蛇丸の負け。それがこの戦いの勝敗だ。


「終わったのかってばよ……?」

「あぁ。もう全部終わりだ」

「そうか。やったんだな、オレ達!」


 動かなくなった大蛇丸。もう、この町が襲われる心配はなくなったのだ。
 自分達の町を守ることが出来たことが嬉しい。喜ぶナルトを見ながら、この笑顔が失われなくて良かったとサスケは思う。


「これからは何も心配しなくて良いんだよな?」


 ナルトは大蛇丸のような敵が再び現れる心配をしているのだろう。けれど、転生術を使えるのは大蛇丸ぐらいであり、今後そのような敵が出現することはない。
 そう伝えれば、安心したようにほっと息を吐く。もう敵の心配などせずにこれまでのような日常を過ごすことが出来る。
 そんなことを考えながら、ナルトの頭にはふと疑問が浮かんだ。それは以前、大蛇丸と会った時に言っていた言葉。


「そういえば、コイツの探し物ってなんだったんだろう」


 言われてサスケもそういえばと思い出す。探し物があるからまた木ノ葉崩しを行うと言っていたことを。
 それに対して、サスケは探し物があるならそれを探すだけにすれば良いと話したのだ。そのために木ノ葉を潰す必要はないと。今の今まで忘れていたが、奴は何を探していたのかは分からないままだ。


「さぁな。そこまでは分からないが気にすることもないだろ」

「うーん……そうだな。考えたって分かんねーし」


 そこでこの話は終わりとなったが、サスケは何かが引っ掛かっていた。その探し物が何かは聞いていないのだから分からないし、今更聞くこともできない。
 もう終わったというのになんだか嫌な感じがする。忍の勘、とでもいうのだろうか。
 戦いも終わったのだから帰ろうとしていたナルトだが、そんなサスケの様子に気付いて「サスケ?」と不思議そうに見つめる。その声に、考え過ぎかと片付けて返事をしようとした時。それが間違いではなかったと悟った。


「ナルト! 伏せろ!!」


 ただそれだけを言うと、チャクラを足に溜めて一気に地を蹴る。
 そして次の瞬間、鈍い音が響く。


「大丈夫、か…………?」


 生温い液体がポタリと落ちる。
 どういう状況なのか、なんてことは目の前を見て分かる通り。刀がサスケの体を貫いた。ナルトに向けられていた攻撃をサスケが庇った、ということは明白だった。


「サスケ!! お前、オレを庇って……!?」

「怪我は……してないみたいだな」

「オレは平気だってばよ! それよりお前の方がッ!!」

「このくらい、心配いらねェよ」


 サスケはそう言っているけれど、どう見たって大怪我である。流れている血は止まらない。急いで病院に行かなければいけないレベルだろう。
 しかし、サスケは自分で刀を抜くと周囲に視線を巡らせる。誰の攻撃かなど、この場に居る人間は限られているのだから分かり切っている。


「その子を守る代わりに、自分が犠牲になる。アナタらしいわね」

「大蛇丸……まだそんな力が残っていたのか…………」

「木ノ葉崩しは、またすれば良いわ。だけど、またアナタ達に邪魔をされては面倒なのよ」


 そう。ここで対等に戦える者を潰してしまえば、今回の怪我を直してからもう一度仕掛けることが出来る。やられたように見えていたのも大蛇丸の思惑だったのだろう。そして、ナルトを狙えばサスケが動くということも計算済み。


「全部、アンタの計画通り、というわけか」

「そうでもないけれど、これでアナタ達との戦いは終わりよ。その怪我では辛いでしょう?」


 そんなことはない、と言えないのはその通りであるから。赤く変化していた瞳もスッといつもの漆黒の色に戻っている。写輪眼を発動しているだけの力も残っていないのだ。大蛇丸どころかナルトでさえ今のサスケは戦える状態ではないとことくらい分かる。
 印を結び始める大蛇丸を見ながら、この先起こるであろうことを想像するのは容易い。サスケは大蛇丸から視線を外すと、近くにある青色の瞳を見つめる。


「ナルト、オレのことは構わずに、逃げろ」

「嫌だってばよ! 大体、今度は一緒に戦うって言っただろ!!」


 あの日、力になりたいと。そう話して色んなことを学びここまで来た。ここにきてまた逃げろなんてズルい。
 だけど、これは先が見えている戦いだ。そんなものにいつまでも付き合わせることなどないとサスケは思っている。こんな状況で言い争いをしている暇なんてないけれど。


「分かっている。だが、オレに出来るのはせいぜい大蛇丸を止めること。アイツを止められれば、もうこんなことをしなくて済む」


 この体で何が出来るのかくらい、サスケ自身が分かっている。
 それでも、今やらなければいけないのだ。ゆっくり立ち上がり、その瞳には再び三つの巴が浮き上がる。

   ナルトはこんな状態になってもただ戦おうとするサスケに、自分の非力さが悔しかった。忍ではない自分に出来ることなんてほんの一握りのことだと分かっていたけれど、それでも大怪我をした彼を戦わせてしまうことが心苦しい。
 このままでは、サスケは自分の持てる全てを持って大蛇丸を止めようと限界まで戦うに違いない。そんなこと、させられない。


「これで最後よ、サスケ君」


 発動される術に立ち向かおうとするサスケを制し、前に出たのはナルトだった。その行動に吃驚しながら名前を叫ぶが引く様子がない。そのまま大蛇丸の術は発動され、辺りは白煙に包まれた。


「どういうこと…………」

「ナルト……!?」


 まだそこに残っている気配の数に大蛇丸は疑問を抱く。一方でサスケは、目の前で起こった状況に驚いていた。
 さっきの攻撃は確かに当たっていた。けれど、それを全て受けきったのだ。淡いオレンジ色の光に包まれたナルトがサスケを守った。その現象に驚いているのは、周りだけではなく本人自身も同じ。


「お前、その力は…………」

「オレにも分からないけど、サスケを守りたいって思ったらいきなり力が湧いてきて……」


 今まではずっと守られてばかりだった。ボロボロになってまで戦おうとするのを止めたかった。そう思いながら頭の指示するままに動いただけ。そうしたら体中から力が湧いてきて攻撃を防ぐことが出来たということらしい。
 そのオレンジ色の光がナルトの力であることは確かだ。その気配をサスケは知っていた。そして、大蛇丸が探していると言っていたものがここで漸く分かった。


「まさかナルト君、アナタがその力を持っていたなんてねぇ」

「大蛇丸。アンタが探していたのは、これだったのか」

「どこかにあるはずだと探していたけど、これじゃぁ見つからなかったのも無理ないわ」


 特別な力。大蛇丸が探していたのは、今ナルトが使っている力そのものだ。どこにあるのかと探し続けたけれど見つからなかったのは、ナルトがその力を使うことが出来なかったから。今この瞬間まで、ずっと奥底に秘められたままとなっていた力。
 この力が何なのかという答えは大蛇丸、それからサスケにも分かっていた。この時代にはもうなくなっていたと思っていた力が、ここに蘇る。


「ナルト」


 自分の力に戸惑っているナルトに声を掛ける。すぐに振り向いた瞳の色は、いつもの青から赤い色へと変化していた。サスケは一歩前に出ていたナルトの隣に並ぶ。


「大蛇丸の狙いはお前だ。木ノ葉の為にもお前の為にも、ここでアイツを倒す」

「でも、サスケ。その身体じゃ…………」

「オレのことは気にするな。お前の力は、オレの目で制御できる」


 サスケの目、つまり写輪眼。ナルトのこの力はかつて九尾が持っていた力に似ている。それをなぜナルトが持っていたかは分からないけれど、九尾の力はうちはの力でコントロールすることが出来る。まだ安定していない力を扱うことは難しい上に、暴走する可能性もないとは言い切れない。それを防ぐためにもサスケの力は必要なのだ。
 先程の攻撃のせいで体力は殆ど残っていない。せめて今だけでも止められればと思っていたけれど、目的がナルトであるのなら話は別。ここで確実に終わりにしなければいけない。だから、最後の力で。


「アイツも限界のはずだ。オレの力も長くは使えない。ナルト、最後にもう一度だけ、力を貸してくれ」


 今度こそ本当に最後の戦い。逃げて欲しいと思ったのも嘘ではないけれど、お前が共に戦ってくれるというのならその力を貸して欲しい。一人ではどうにもならない、けれど二人でなら勝てるという光が見えたのだ。これで、今度こそ終わりにしたい。
 そんなサスケの思いは、ナルトにもしっかり伝わっていた。元々、ナルトはサスケを一人にしようとなど思っていない。二人で戦うと約束したのだから、答えはとっくに出ている。


「任せろってばよ! オレ達で必ずアイツを倒す!」


 ナルトの言葉にサスケは小さく笑みを浮かべると、赤の瞳は真っ直ぐに前方に向けられる。
 うちはの力と九尾の力。数十年の時を経て、今ここに揃った二つの力。これらは大蛇丸がかつて欲した力と、探し求めていた巨大な力。どちらも強力なものであるのは間違いないが、それが両方揃った時。それは片方だけでは成し得ない力となる。


「今度こそ、本当に終わりだ。大蛇丸!」

「アナタ達にその力を使いこなせるのかしら」

「行くってばよ!」


 二つの力を扱う二人の少年は一斉に飛び出す。持てる最大の力を発揮して力と力がぶつかり合う。辺り一面の空気が振動し、激しい戦いの最後のピリオドを打つ。