昨日、サスケとナルトは出会った。そして一緒に過ごして行くと決めた。
そんな二人の生活も今日で二日目。ナルトはいつも通りに学校があり、それならと二人は一緒に学校へと向かった。どうせナルト以外の人には見えないのだからサスケが行っても問題ないという判断だ。
今日も朝から長い授業を聞き、夕方になって漸く学校は終了。放課後になって真っ直ぐ家に帰った二人は、部屋の中で目の前にあるそのプリントと格闘していた。
時を越えた出会い 2
数分前から変わらない光景。ナルトは目の前に広げてあるプリントと格闘中だ。
そのプリントというのは今日の宿題である。数学と社会のプリントが広げられている。それも広げられているだけで答えは書かれていない。唯一書かれているのは名前だけ。鉛筆を持ちながらも手は進まずにいるのが現状だ。
「うーん…………」
必死で答えを出そうとするものの解けない。解き方が分からないのだから答えが出てこないのは当然である。
ナルトは学校に行って授業に出ていることもあれば、サボっていることも結構ある。授業を受ける為に教室に居たとしても昼寝をしていることが多い。その度に教師に怒られている。テストの点数や成績が低いのもこれでは仕方がない。まともにやっているのは体育の授業と理科の植物に関する授業ぐらいだろう。成績が良いのはこれだけで他は全く駄目だ。
数分間、全部の問題に目を通して考えても答えは出てこないまま一向に進まない。
これは無理だと判断したナルトは鉛筆をテーブルに置いてその場で寝転がる。そもそも宿題なんてやる気もないし、どうせ解けないのなら考えるだけ時間の無駄だ。
「…………おい」
「何だってばよ」
「やらなくて良いのか。宿題だろ」
全くやる気のない様子を見てサスケはついに口を出す。さっきまでは見ているだけで何も言わなかった。それは分からないながらもナルトが問題を解こうとしていたからだ。
ナルトは勉強が苦手だ。だから解くのにも時間がかかる。それが分かっていたからあえて口を出さなかったのだが、流石にこの様子を見たら言いたくなってしまう。
「良いんだってばよ。どうせ分かんねぇんだから」
その返答に呆れてしまう。分からないからやらなくて良いということではない。分からなくても調べるなりしてやらなければいけないだろうとサスケは思う。解こうという気があれば解けないことはないのだ。
それなのに、ナルトは鉛筆を置いて全く解こうとはしなくなってしまった。授業も殆どが受ける気がない様子を見ていたからこうなるだろうことも予想はしていた。だが、宿題は宿題だ。
「そういう問題じゃない。さっさと解け」
教師が苦労するのも分かる気がしてしまう。サスケがそう思ったことをナルトが知る由もないが、宿題も授業も本当はちゃんとやるべきものだ。だからサスケはナルトにやらせようとする。ナルトがこんなことをしてる間にも他の生徒はちゃんと宿題を進めているのだろう。
「無理だってばよ。やりたいならサスケがやれば良いじゃん」
どうしてそうなると言いたいが、言っても意味はないだろうから口を閉ざす。大体、やれば良いというがこれはナルトがやるもの。ついでにいうと、サスケがやれるわけがない。サスケは肉体を持っていないのだからまず鉛筆に触れることすら出来ない。
だからといって問題が解けないのとは違う。肉体を持たないだけであって精神はちゃんと存在し、今も此処に在る。けれど、それだけではどうしようもないのだ。
「無茶を言うな」
「言ってるのはサスケだろ」
「……教えてやるからちゃんとやれ」
どっちが無茶を言っているのか。はあ、と溜め息を吐きながらサスケは諦めたように言う。自分でやるのが一番良いのだが解かないのなら仕方がない。やらないよりかは教えて貰ってでもやった方がマシだろう。それでやり方も覚えてくれれば良いのだが、そこは期待しないでおく。
「教えるって、サスケってばこれ分かるのか?」
「誰が分からないのに教えるって言うんだよ」
へぇ、と言いながらしつこく食い下がるサスケにナルトも諦めた。起き上って再び鉛筆を持つと、サスケは一問目から順に問題を解いていく。一応、解き方の説明もしながら。
最初に手をつけたのは数学のプリント。さっきまで真っ白だったこのプリントにどんどん文字が書かれていく。ナルトはただ答えを書いているだけなのだが、この現状に少なからず驚いていた。まさかこんなに簡単に問題を解き、更には解説までするなんてクラスで一番の奴でも出来るかどうか。それをサスケは簡単にやってのけるのだ。
そしてあっという間に数学のプリントは解き終わった。二枚のプリントが約二十分で終わるなんて思いもしなかった。
「これで、数学は終わりだな」
全部の問題を確認しながらサスケは言った。ナルトは唖然としてそのサスケを見ている。
無理もない。サスケは昨日会ったばかりで忍だ。今まではずっとあの場所に居たというのに、現代の勉強をこれほど楽にこなすなんて。
「……なぁ、サスケ。お前ってば、もしかしてもの凄く頭良い?」
思わずそんな質問をしてしまった。サスケが木ノ葉のうちは一族という忍だということや、里を裏切った抜け忍だという話は聞いた。けど、他のことは殆ど何も知らない。だからこそ尋ねた。
「別に………」
「絶対そうだろ! それじゃなきゃどうやってこんな問題分かるんだってばよ」
簡単に解けるもんじゃない、とナルトは言う。簡単に解けるかどうかは人によって違うだろう。この問題にしても、サスケのように簡単に解けるという人だって居るはずだ。難しいと感じる人も居るのは確かだが、ナルトにしてみれば簡単ではないのだからそう言うのも仕方ない。
そんな風に騒いでいるナルトを見たサスケは再び溜め息を吐く。どうしてそんなに元気に騒いでいられるのだろうか。そんなに元気なら自分で解く努力ぐらいして欲しいと思ってしまうが、とりあえず質問に答えることにする。
「忍者学校で似たようなことを習っただけだ。それに今日の授業を聞いていれば分かるだろ」
忍者学校というのは忍を育てる学校のこと。忍としてのことも教わるが基本的な計算なども教わる。ナルトは忍者学校を知らなかったが、言葉からして今の学校みたいなものだとは理解した。忍にもそういうところがあるんだなと初めて知る。
だが、後に続いた言葉は間違っているとナルトは思うものだ。いくら授業を聞いていても分からないことはある。むしろ分かるのはサスケみたいな奴ぐらいだろうと思った。どういう返答がくるのか予想できたから口には出さなかったが。
「社会は自分でやれよ」
「いや、無理だってばよ!? お前最初に教えてくれるって言っただろ!」
「両方教えるとは言ってねぇよ」
しかし両方教えないとも言っていない。それに最初に教えると言ってやらせたのはサスケ。だから最後までちゃんと見ろ。
……というのがナルトの意見だ。そのまま全部サスケに言うことはないが。
社会の問題は歴史。ナルトにとっては過去なんてどうでも良いのだが、流石に授業はそうもいかない。
木ノ葉の歴史といえば昔、忍が居た頃のことだ。木ノ葉だけではなく、他国のことも出てくるが全ては木ノ葉が中心になっている。ここが元木ノ葉隠れの里があった場所だから当然といえば当然だ。
元々木ノ葉の忍であったサスケならこれくらいの問題は簡単に解けるだろう。どちらかといえば数学よりも歴史の方が簡単なんじゃないかとも思う。
「そんなのズルイってばよ! ちゃんと教えろ!!」
教えなければやらないとまでナルトは言う。それを聞いたらサスケも教えるしかなくなってしまうが、これで良いのかは怪しいところだ。自分でやるべきだというのに、これはさっきと同じようなパターンになってしまっている。
「……分かった、教えてやる。だから騒ぐな」
折れたサスケがそのように言えば、ナルトも騒ぐのを止める。本人は騒いでいるつもりはなかったが、周りからすれば騒いでいたようなものだ。大声で文句を言っていればそう思われるもの無理はない。また鉛筆を持ったナルトに本日何度目かの溜め息を吐きながら、サスケはプリントに視線を落としながら言う。
「ただし、オレの分かる範囲だけだからな」
「分かってるってばよ」
分からない部分は教えられないのも仕方ない。分かる範囲でも教えてもらえるのならそれで十分だ。真っ白で出すと先生が五月蝿いが、一つや二つでも解いてあれば話は別なのだ。
一つ一つ、教えられながら解いていく問題。その時は何も気付かなかったけど、社会の問題をやる時。サスケは複雑な表情をしていた。そんな気がしただけで実際はどうか分からない。けれど、ナルトは人の感情には敏感だった。だからこそそんな風に感じたのかもしれない。
木ノ葉の歴史。忍がなくなったのは数十年ほど昔の話だ。昔といっても、サスケはその時代を生きていた人間だ。冷静に考えてみれば、こんな問題をやりたくなかったのかもしれない。それに気付いたのは社会のプリントを終えてからだったが。
「これで、社会も良いだろ」
サスケの声でナルトは今まで自分が考えごとをしていたと気が付いた。今更だけど、やっぱりサスケに悪いことをしたのかと思ってしまった。
だけど今更sれを言うのも言いづらいものがある。言って良いことなのかどうかも分からないが、教えて貰ったのだから礼ぐらいはきちんと言っておこう。
「あ、おう。ありがとな」
そう言った後、サスケの表情を見ていたけどいつもと変わらない様子だった。もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。もしそうだったら自分が余計なことを考えていても仕方ないとナルトはいつも通りに過ごした。
いつもといっても昨日の今日でお互いのこともあまりまだ知らないけれど。でも、宿題をきちんと終わらせることが出来て良かったと思う。これで明日は先生に怒られる心配もないだろう。
この後もお互いに特に変わった様子はなかった。だからナルトも気にしなかった。きっと、気のせいだったのだろうと。
二人は、こうした一日一日の生活を送っていった。いつも変わらぬ生活を。毎日の時間を大切にしながら。お互いとの時間を楽しみながら。
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