日常となっているこの生活。二人が出会ってから一ヶ月という月日が経った。
 長かったような短かったような一ヶ月。一人ではなく二人で過ごす時間。ずっと一人だった彼等にとって、こんなにも誰かと一緒に二人で居られるというがなんだか新鮮だった。



 




「どうしたんだってばよ?」


 学校の帰り道。いつものように二人で帰っている時のことだった。急にサスケが足を止めたのだ。
 それに気付いたナルトもまた足を止めて振り返りながらそう問うたのだが、サスケは返事もせずにただ何かを見ているようだった。それが何かは分からないけど、ただある方向をじっと見つめている。


「サスケ……?」


 そんなサスケの行動がナルトには理解できなかった。急にどうしたのだろうかとただ疑問に思うばかり。何があったわけでもなく、本当に急にだ。


「ナルト、先に帰っててくれ」

「は!? 何だってばよ、急に」

「多分、そんなに時間はかからないと思う」


 それだけを言い残してサスケは走り出した。
 あっという間に居なくなってしまったサスケに、残されたナルトは何なんだと余計に疑問が増える。先に帰るように言われたけれど、やっぱり突然の彼の行動は気になる。まだ一ヶ月という短い時間しか一緒に居ないけれど、サスケがこんな行動に出るのは初めてだ。


「どうすれば良いんだってばよ…………」


 気になるのは確かだ。けど、着いて行ったところで帰ってろと言っただろと言われるのが目に見えている。
 さて、どうしたものか。ナルトはこの場に立ち止まりながら、彼の消えて行った方向を見つめて考えるのだった。



□ □ □



 一方、サスケは初めてナルトと会った場所に来ていた。着くなり辺りを一度見回してみたが、特に変わった様子はない。それもそうだろう。たかが一ヶ月でそれほど景色は変わらない。


「気のせいだったか……?」


 さっき、何かの気配を感じた気がした。その気配がこの場所の方に向かっていたようだったから来てみたのだが、いざ来てみれば特に変わった様子はなかった。念の為に周辺の気配も探ってみたのだが、それでもやはり何もないようだ。
 これだけ調べても何もないのだ。ただの気のせいだったのかもしれない。そう考えて帰ろうとした時だった。突然、大きな気配がすぐ傍に現れた。


「誰だ!?」


 つい先程までには何もなかったはずのその場所に、今は確かに大きな気配がある。辺りに人影は見当たらない。どこかに隠れているのだろう。
 それでも気配を探ればどこに居るのかは分かるけれど、これほど大きな気配を持っているような相手だ。この状況でこちらから動くということはしない。してはいけない。忍として生きていたサスケはすぐにそう思った。


「まさか、貴方が生きていたなんてね…………」

「アンタは……!」


 聞こえてきた声にサスケは驚いた。その声は以前にも聞いたことがある、よく知っているものだ。忘れられるものではない。気配がこれほど大きのも当然だ。この人物はそれほどの実力者だ。
 声の主は木の影からゆっくりと歩き出てきた。


「久しぶりね、サスケ君」

「大蛇丸!!」


 大蛇丸。伝説の三忍といわれるほどの忍だ。木ノ葉隠れの抜け忍であり、音隠れの里を作った人物。四代目風影を倒し、木ノ葉崩しを仕掛け師である三代目火影は大蛇丸との戦いで破れ命を落とした。かつて天才とまでいわれた人物だ。
 その部下にはかぐや一族の君麻呂、音の四人衆。そして、木ノ葉の抜け忍である医療忍者の薬師カブト。そういった実力者が揃っていた。


「貴方には感謝してるのよ。うちはの能力がなければ木ノ葉をあんなにまですることは出来なかったわ」


 うちはの能力。それは写輪眼の血維限界を指している。元々それはうちは一族の力である。どうして大蛇丸がその能力を使えるのか。それには理由があった。
 うちは一族を滅ぼした人物、うちはイタチ。サスケの実の兄だ。その兄に復讐を誓った弟のサスケは、忍になってからもただひたすらに力を求めた。強くなることだけを望んでいた。その為、大蛇丸の力を与えるという言葉を聞いて木ノ葉の里を抜けた。仲間が必死で止めようとしたにも関わらず、サスケは大蛇丸の元へと行った。
 サスケが大蛇丸の元へ行って約三年。大蛇丸はサスケの体に転生をした。だから大蛇丸はうちはの能力を使うことが出来たのだ。


「今更木ノ葉に何の用だ」


 過去に二度、木ノ葉を襲撃している大蛇丸。一度目はサスケも含めた新人九人が受験をした中忍選抜試験の時。二度目は、うちはの能力を手にしてから約半年が経った頃。確かそれも中忍選抜試験の時期だったはずだ。
 そして今。ここはもう忍がいたあの頃とは違うのだ。今は忍など一人もいない平和な世界。それなのに、今更こんなところに一体何の用があるというのだろうか。


「あら、久し振りの再会だっていうのに恐い顔しちゃって。まだ私が貴方との約束を破ったことを恨んでるのかしら」


 約束。それは大蛇丸がサスケに転生術をする時に交わした約束だ。己の体を差し出す代わりにイタチへの復讐を果たす。つまり、イタチを倒すという約束だ。
 その約束を大蛇丸は守らなかった。おそらく最初から守るつもりなどだろう。うちはの能力が欲しかったからサスケに転生をしたのだ。その能力が手に入ればわざわざイタチを倒しに行く理由はない。むしろそこで苦戦を強いられる可能性を考慮すれば、しない方が良いということだろう。


「質問に答えろ」


 いつも感情をあまり表に出さないサスケだ。けれど今はその言葉の一つ一つに殺気がある。
 大蛇丸という存在。それがサスケにとってどんな存在なのか。かつては師であった。だがそれも昔のこと。今となっては、交わした約束も破って自分の体を転生で手に入れた者。力を求めて自分から大蛇丸の元へ行ったとはいえ、約束も守らなかった相手を良いとは誰も思えないだろう。


「別に大した用はないわよ。今はね」

「今は、とはどういう意味だ」


 用はない、でなく“今”という言葉を前につけた。それは用がないのではなく、今は何もしないだけで何かがあるという意味。つまり、コイツはまだ木ノ葉に何らかの用があるということ。


「いずれ分かることよ。そんなに焦る必要はないわ。またいずれ会いましょう、サスケ君」


 それだけを言い残して大蛇丸は消えた。
 残されたサスケは大蛇丸のことを考える。一体何をするつもりなのだろうか。何が目的なのだろうか。大蛇丸の言動はどれも疑問ばかりを生み出す。
 まさか、また木ノ葉を潰すつもりなのか。だがここはもう昔とは違う。仮にこの町を攻めたとして、忍のいないこの世界の人々は何も出来ない。

 とはいえ、サスケだって今はその身を持たないのだ。これ以上考えても仕方がない。そう思い、今日はもうナルトの待つ家へと戻ることにする。
 これから起こることなど誰も分からない。未来など見えないのだから。

 けれど、サスケが大蛇丸と再び会う時。
 そんな日は、そう遠くないのかもしれない。