「ナルトッ!!」
大蛇丸はナルトにクナイを投げた。クナイは一直線にナルトへと飛んでいく。
飛んでいくクナイを追いながらサスケはナルトの名前を叫ぶ。クナイは殺傷能力が低いといえど、一般人のナルトにとっては違う。何としてでも避けなければいけない。色んな気持ちが交差しながら、とにかくそれを避けて欲しいと願いその名を呼ぶ。
時を越えた出会い 5
この時代で使われることのないクナイをナルトは初めて見た。忍が使っていたものだけあって、今の時代には似合わない攻撃の為の道具であることはすぐに分かる。けれど、どうすれば良いのか分からないまま飛んでくるクナイをただ見ていた。ボールなんかとは比べ物にならないようなスピードだ。
そんなナルトにサスケの声が届く。その声で我に返り、ナルトはこのクナイをどうにかして避けなければいけないと悟った。
――――シュッ。
クナイは、真っ直ぐ進み“グサッ”という音と共に木に刺さる。狙いだったナルトは地面に伏している。
「ナルトッ! 大丈夫か!?」
すぐ傍まで駆け寄ると、サスケはそう声をかけた。すると、ナルトはゆっくりと起き上がりその場に座る。
「なんとか、大丈夫だってばよ」
右腕を押さえているのは、そこをクナイが掠めたからだ。どうやら持ち前の運動神経と反射神経が怪我をこの程度に抑えたようだ。他に怪我をしている様子は見られない。
たったこれだけに抑えられた怪我にサスケは心底安心した。もし、あのクナイが致命傷に当っていたらと思うと恐ろしい。忍とはいえ、そんなことを考えたくはないし考えるようなことでもない。
いきなりクナイを投げた大蛇丸をサスケは睨む。その瞳には殺気が込められる。
「あら、なかなかやるじゃないの」
「大蛇丸! 木ノ葉崩しをする必要なんてもうないだろ。探してるモンがあるなら、木ノ葉崩しなんてしないで探せばいい」
今のこの時代には、大蛇丸が殺そうとしていた相手が居るわけでもない。忍すらいなくなった世界でわざわざ木ノ葉崩しをする必要などないはずだ。探している物があるなら勝手に探して見つければいいだけのこと。平和になったこの時代の人達を巻き込むことはないのだ。
けれど、大蛇丸の考えはそう簡単に変わったりはしない。そもそも、忍が居ないことぐらい大蛇丸だって分かっている。分かっていて言っているのだから、サスケの言葉で簡単にその考えが変わるはずもなかった。
「今だからこそやりがいがあるのよ。止めるような人が居ないのもつまらないかもしれないけど」
あくまでも遊びの一つとしか考えていない。大蛇丸にとっては、探し物のついでに木ノ葉崩しをするのだろう。そんなことが許されるわけがない。この時代でも、忍が居た時代でも。だが大蛇丸にそんな常識は通用しない。
二度の木ノ葉崩しはどちらも大蛇丸が計画して実行した。奴の部下や木ノ葉を潰すことを企んだ他里の忍が一緒になって行い、木ノ葉側は里の忍が一団となって抑えようとした。なんとか終わった木ノ葉崩しは、どちらも木ノ葉隠れに大きな影響を与えたのだ。
忍が居てもその影響は半端がなかった。この忍が居ない世界では、あの時以上に大きな影響を与えることになるのだろう。この時代の人が止められないのなら、ここでどうやってでも止めなければいけない。
「つまらないなら止めろ。ここで暮らす奴からすれば迷惑なだけだ」
「そうもいかないわよ。いくら前のように忍が居なくても、アナタが戦えなくても、ねぇ……」
止めようにも大蛇丸がやめることはまずない。説得出来るような相手でもない。なんとか説得しようにも上手くかわされてしまう。やはり、止めるのに戦う以外の方法はないのだろう。
だが、サスケは戦えない。当然だが、この時代の人達が戦っても負けは目に見えている。どうすればいいのかと考えても答えは見つからない。何か一つくらい、方法があるかもしれないけれど極めて低い確率でしかないだろう。その答えを見つけられるかすら分からない。
「どうしても止めたいのなら今ここでどうにかするのね。サスケ君にそれが出来ればの話だけど」
出来ないと分かっていて話している。それが悔しくて堪らない。大蛇丸と会ってから何度同じことを思っただろうか。あえて数えようとは思わないが、あの日から何回も思ったことだ。
転生されずに肉体があったのならもうこの世には存在していないのだろうけれど、精神だけで存在しているくらいなら肉体があったほうがどれほど良かったことか。目の前に居る大蛇丸を倒すまでとはいかなくても、止めることが出来ないわけでもなかっただろう。
下を向いて考えているサスケを見て、ナルトは思う。どうせ一人なら一緒に居ようと言ったのはナルトだ。それから今まで、二人は共に過ごしてきた。
精神だけは辛いといった気持ちも二人で居れば少しは変わると思っていた。だけど、こうしたことに遭遇してサスケが何を思うのか。予想がつかないわけではない。そう思うと、なんと声をかければいいのか分からなくなってしまう。
「サスケ…………」
ただ名前を呼ぶことしか出来ない。肉体という身体があっても忍ではないナルトには何も出来ない。サスケが精神だけであることを悔しいと思うように、ナルトは何も出来ない自分が悔しい。どうすることも出来ない現実の壁が、目の前に大きく立ちはだかる。
「ナルト、お前は早く此処から離れろ。怪我の手当てもしないといけないしな」
「でも……!」
「アイツは普通じゃない。お前がどうにか出来るような奴でもないんだ」
この場は危険だ。だからサスケはナルトを此処から遠ざけようとする。
もし、本当に大蛇丸が木ノ葉崩しを始めたらどこにいても同じ。生きる時間が延びるだけのようなものだ。けれど、そんなことは絶対にさせない。させないけれど、ここが危険であることに変わりはない。だから今は此処から離れていて欲しいのだ。
だけど、ナルトは離れようとしない。サスケの気持ちが分からないわけではないでも、一人だけ逃げるようなことはしたくなかった。いくら忍ではない一般人だとしても、大切な人を置いてはいけない。
「それでも、お前を一人置いて逃げられるかよ!」
「ナルト、アイツはもしオレが肉体を持っていたとしても勝てるかは分からないような相手だ。そんな相手を前に、精神だけのオレはお前を守ることも出来ない」
はっきりと告げられる現実。ぎり、と歯を食いしばりながら重く言葉が紡がれる。
けど、やはり一人で逃げたくはない。何か出来ることはないのかと必死で考える。どんなに小さいことでもいい。何か力になれることは……。
「二人共、そろそろ話は済んだかしら」
聞こえた声に二人同時にそちらを振り返る。こっちが何も出来ないことを知っているからだろう。大蛇丸は余裕の笑みを浮かべている。
「どうすることも出来ないまま木ノ葉の終わりを見届けてもらうのもいいけど、騒がれても面倒だしこの場で終わらせようかしら」
緊迫した空気がこの空間を占めた。
← →