「どうすることも出来ないまま木ノ葉の終わりを見届けてもらうのもいいけど、騒がれても面倒だしこの場で終わらせようかしら」
告げられた言葉に緊迫した空気がこの空間を占めた。
何もしなければ、この先に待っているものは決まっている。このままでは死という結末しかない。
時を越えた出会い 6
どうすることが得策なのか。考えたところですぐに答えは見つからない。ただ、この場を離れろと言っても離れようとしないナルトを一秒でも早くこの場から遠ざけなければいけないことだけが分かっている。いくらナルトが離れたくないと言っても、このままではいけないのだ。
この場で止められなければ大蛇丸は木ノ葉崩しをする。そうなれば遅かれ早かれ結果は同じこと。けれど、今はまだ大丈夫なのだ。これ以上、怪我をさせたくもない。だから早くこの場から離れて欲しい。
「ナルト、さっさと此処から離れろ! 大蛇丸は何をするか分からない。オレはお前を守ることも出来ないと言っただろ。だから早く行け!」
この状況がどれだけ危ないのか。それが分からないわけではない。サスケの気持ちも彼が言いたいことも全部分かっている。
でも、やっぱり一人で逃げたくないという気持ちは変わらない。たとえどんなに危険だとしても。自分がこの場に居ることがサスケにとって迷惑でしかないとしても、ナルトはこの場を離れたくなかった。
「なかなか意見が合わないみたいねぇ……。でも、いい加減私も待ちくたびれちゃったわ」
言って大蛇丸は草薙の剣を手にした。草薙の剣は大蛇丸が普段扱っている刀。先程のクナイとはレベルが違いすぎる武器。
それを見たサスケはもう一度ナルトに「早く行け!」と怒鳴る。もう待たないと言った大蛇丸がどちらを最初に狙うかは明白だった。というより、精神体でしかないサスケを倒すことはない。狙いはナルト以外に有り得なかった。
動き出したそのスピードは普通なら考えられない速さ。ただし、それはナルトにとってであってサスケからすれば見慣れたもの。転生を繰り返し、忍の居ない世の中になってもそのスピードは変わらない。以前より若干遅くなったようにも感じるが、この世界では十分すぎるほどの速さだ。
今度のこれは先程のクナイのようにはいかない。運動神経や反射神経だけではどうにもならない。段々と迫る距離。あっという間に縮まった距離に、どうしようもないと分かっていながらもその名を叫ぶ。
「ナルト!!」
必死で声を上げる。様々な思いを乗せた声が音になる。込められている思いは片手で数え切れられるような量ではない。沢山の思いが風を切り進む。
一瞬、辺り一面が光に包まれたようだった。
光が収まるまでの時間は本当に一瞬。そんな光を気にも留めず、大蛇丸の刀は振り下ろされた。
スパッ、と音がなる。それは風を切るような音だった。いや、風を切るようなではなく、実際に風を切った音。何もない空間を切っていたことに大蛇丸は驚いた。
(どういうこと。今の時代を生きるあの子が避けたとでもいうの……!?)
一体何が起きたのか。その答えを知るまで、そう時間はかからなかった。
あまりにも分かりやすい変化に大蛇丸の視線は自然とそちらへと向けられた。その先にあったのは、切ったと思われたナルトの姿。そのナルトも唖然とした表情で地べたに座っていた。そして、呟くかのような小さな声で彼の名を呼ぶ。
「大蛇丸、アンタにナルトを殺させはしない。木ノ葉もやらせるわけにはいかない」
瞳に映るのは、うちは一族の血維限界として知られている写輪眼。大蛇丸が欲していた力、手に入れた力そのものだ。その眼が本来のうちは一族であるサスケの瞳に映っている。それだけではなく、大蛇丸の転生によって失われたはずの肉体が今はしっかりと形になっている。
さっきのあの光。あれが全ての鍵。
再び肉体を手にし、動くことが出来るサスケを前に大蛇丸は驚いていた。もう戻らないはずのものがどうしてこの場に戻ってきたのだろうか。疑問は残るけれど、今は目の前の相手を見据える。
「言うようになったわね。いくらアナタが身体を取り戻したっていっても私を倒せるほどじゃないでしょ」
「たとえ倒せないとしても、お前を放っておくわけにはいかない」
理由は分からない。けれど、忍が二人この場に揃ったのだ。どちらもすぐにでも動けるように構えながら、相手の動きを探るように見る。
サスケは久し振りに肉体という身体を得たが、さっきの身のこなしからして大きな支障はなさそうだ。そして大蛇丸も先程の動きからして久し振りの戦闘にそれほどの支障はないだろう。
暫くの間、二人は相手の様子を伺いながらどちらも動かずに時間だけが流れた。だが、その時間も唐突に終わりを迎えた。戦闘態勢を解いた大蛇丸は「まぁいいわ」と二人の少年を瞳に映す。
「この先、私は必ず木ノ葉を潰す。止めるというのならまたその時に会いましょう」
言い終わるなりドロンという音と同時に姿を消した大蛇丸。そこにはもう数秒前までの緊迫した空気はなく、ナルトとサスケだけがこの場に残されていた。
大蛇丸が完全に居なくなったのを確認したサスケは写輪眼を戻す。赤い瞳からいつもの黒い瞳に色が戻ると、ゆっくりとナルトの元まで歩く。
すぐ横までやって来たサスケより先に、ナルトの方から疑問を投げかけた。
「え、何で……どうしてサスケが…………!?」
どうやらナルトは全く状況が飲み込めていないらしい。だがそれも無理もない。あるはずのない肉体という身体を持ち、大蛇丸と対峙していたサスケの瞳は普段のそれとは違う色だった。あれが例の写輪眼であることはなんとか理解出来たが、疑問は浮かぶばかりだ。
驚きを隠せずにいるナルトの様子を見ながら、サスケは考えるようにして口を開く。
「オレにもよく分からない。だが、これが一時的な身体であることは確かだ」
驚いているのはナルトだけではない。サスケも同じだ。それでもサスケは状況を整理しながらこの現象のことを説明する。手や足を動かしながら分析し、理解するそのスピードは優秀といわれるだけある。出来るだけナルトにも分かりやすいような言葉を選びながらサスケは話を続ける。
「元々オレの身体は大蛇丸に転生され、失われた。それが具現化するには何らかの理由がある」
そこで一度言葉を切ると、サスケは慰霊碑の方に視線を向ける。つられるようにしてナルトも慰霊碑を見る。
「これはオレの憶測だが、あそこに慰霊碑があるだろ。そこに記されている名前の中にはオレの知っている奴も居る。ソイツ等がさっきのあの場面で、一時的ではあるがオレに身体を与えたんだと思う」
自分で言いながらも些か信じ難いことだなと思いながら、けれどこの状況で考えられることは他にない。そもそもサスケがこの世界に、精神体とはいえ残っているのも俄かには信じられないだろう。
そんなことが現実に起こっているくらいだ。何が起こってもおかしくはない。ナルトもなんとなくではあるが、サスケの言いたいことを理解したらしい。
「つまり、今のその身体は一時的なもので、それはお前の仲間がくれたものってことか……?」
「そんなところだ。あくまでオレの憶測だけどな」
一通り整理しながらもサスケはまだ考えごとをしていた。この身体のことは、自分の中で一応整理が出来ている。問題は大蛇丸のことだ。 あの様子からして、大蛇丸が木ノ葉崩しを諦めるということは絶対ないだろう。そうなると、やはり何か対策を考えなければいけない。いつ大蛇丸が動くかは分からないが、それまでに出来ることはやる必要がある。サスケ自身が動ければ一番早いのだが、この身体が一時的なものである以上はそうもいかない。となると、残された方法は。
「どうしたんだってばよ?」
考え込むサスケの顔をナルトが覗き込みながら尋ねる。それに「何でもない」と返せば、いつもそればっかりだなとナルトは文句を言う。その言葉でナルトを見ると、彼は普段と少し違った表情をしていた。
「サスケはいつも一人で考えすぎ! オレには関係ないって言うけど、オレだって出来ることは協力したいと思ってるんだってばよ」
ナルトはサスケが一人で抱え込むことを知っている。ここに来る前、サスケは大蛇丸と会った時のことを隠そうとしていた。おそらく、何も言わなければサスケは隠し続けたのだろう。そして、そのまま一人で解決しようとしたに違いない。
そんなサスケをただ見ているなんて出来ない。どんなに小さなことでもいいから、ナルトに出来ることがあるなら力になってやりたいと思う。だからナルトは大蛇丸を前にしてもこの場を離れようとはしなかった。
その言葉にサスケは戸惑う。他人を巻き込みたくないと思っているけれど、ナルトは一人で抱え込むなと話す。それも他人を巻き込みたくないが故なのだが、ナルトは協力がしたいと言い出した。
けれど、もし何かあったらどうするというのだろうか。何かあってからでは遅い。だからこそ一人で解決しようとしているのに。
「お前を巻き込むわけにはいかない」
「オレは好きでそうしたいって言ってるんだってばよ」
簡単に自分の考えを変えないのはどちらも同じ。だが、ナルトは言いながら笑う。もう乗りかかった船みたいなものだろうと。
よくそんな言葉を知っていたなと思いながらも、確かにもう巻き込んでしまっているような状態だ。サスケが一人でやると言ったところでナルトが簡単に話を聞くとは思えない。それに、サスケ一人ではどうにもならないのも事実。
それらを踏まえて考えれば、答えは一つしか残らない。
「……この先どうなるかも分からない。いつ死ぬかも分からないんだぞ」
「大丈夫だってばよ。オレってば運動神経は良いからな!」
ここまできたら二人でやれることをやるしかない。それが今、木ノ葉を守る為に二人が出来ること。生まれ育った大切なこの場所を守る、最善の選択。
「覚悟しておけよ、ナルト」
その言葉にナルトは「おう!」と元気よく返す。お互いに向け合う笑顔は、今までとは違う何かを表しているようだった。そしてコツンと二つの拳が合わさった。
いつも一緒に居たけれど、一度も触れることのなかった相手。初めて触れたお互いの拳は様々なことを伝えてくれた。相手の体温、相手の気持ち。たった一度だけ合わせただけで色々なことを教えてくる。
もう、後戻りは出来ない。二人で新たな道を歩き始める。
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