大蛇丸の攻撃に動けなかったナルトを助けたのはサスケだった。一時的に肉体を手にしたサスケの姿を見て、大蛇丸はその場を去った。
その出来事にはナルトを含め、サスケ自身も驚いた。あくまで仮説だが、おそらくはかつての仲間が力を貸してくれたからこその身体。それに心の中で感謝しながら、彼等は二人で一緒に進む。
初めて触れたお互いの拳。
これから、二人は新しいスタートをきる。
時を越えた出会い 7
あれから数日が経った。協力をすると言ったナルトは、サスケから色々なことを教わった。大蛇丸という人物についてから忍というもの、忍術や体術について。話を聞くだけでなく、時には書物を使って調べたりもした。図書室を訪れた時は雨でも降るのではないかと友達に笑われたりもしたが、ナルトにとってはそれが大切なことだった。
忍の世界を生きたサスケ。今この時代を生きるナルト。いくら協力をするといってもナルトにとっては知らないことが沢山ある。少しでも知りたいと思うから自主的に動いている。あまりにも真剣なその姿にはサスケも驚くほどだった。
「なぁ、サスケ」
本を読んでいるかと思ったらふと声をかけられた。ナルトの方を見てみれば、視線は本に向けられたまま。何だと聞き返しても視線は本から外れない。それほど真剣なのだろう。
「こうやって本読むのもいいけどさ、実際にやったりは出来ねぇの?」
突然投げられた疑問には、驚くというより呆れる方が大きかったのかもしれない。ナルトの言いたいことが分からないわけではないが、普通に考えてそれは難しい。
実際にやるにはそれ相応の準備が必要だ。忍具の練習であれば忍具が、忍術であればチャクラを練るところから発動させるまでとそれが可能な場所が必要となってくる。やりたいといってすぐに出来るようなものではない。これがかつての木ノ葉であればすぐにでも可能だろうが、今の世の中では不可能に近い。
「無茶を言うな。どこで何をするっていうんだ」
否定の言葉を述べれば、残念そうに「そうだよな」とだけ言葉にした。表情は変えていないが心の中では相当残念に思っているのではないかと思う。だけど、こればかりはどうにもならない。現代ではどんなにやりたいと言われても難しい話なのだ。
それでも何か方法はないかと考えてはみるもののなかなか思いつかない。時代が時代なだけに土地も変わっている。ナルトに町を案内して貰ったことを思い出すが、あの頃の記憶は全く意味を成さなかった。
「一応聞くが、お前は何がしたいんだ?」
「やっぱ一番は忍術だな! 色んな技を使ってみたいってばよ!」
忍が扱う基本の三種類の術。それは忍術、体術、幻術の三つに分類されている。その中でも忍術は幅広い用途と状況に対応するものだ。火遁や水遁を始め色々な術があり、ナルトの言う通り色んな技を使うことが出来るだろう。
それを聞いたサスケは「そうか」とだけ返した。その後はそれぞれのことに戻り、いつもと変わらない時間を過ごした。
そして、時刻は夜になった。
辺りは暗くなり唯一の明かりは月の光だけ。太陽ほどの明るさはないが、月明かりというものもそれなりに周りを確認することが出来る。
静まり返った夜。ナルトが寝たのを確認するとサスケは夜の町へと飛び出した。向かう先は数日前から決まっていた。あの日、大蛇丸と会ったあの場所。そこに一直線に向かって行く。
着いた場所は、静かという言葉そのもののようだった。町の中心から離れた場所にある為、この場所には月明かり以外の光はない。辿り着くなり慰霊碑の前まで歩き、そこで立ち止まる。
「アンタ、見てたんだろ?」
呟いたそれは静かに空へと消える。そっと手を伸ばし、慰霊碑に刻まれた名前をなぞる。そこにあるのは英雄と呼ばれる木ノ葉の忍達の名前。かつて、サスケが里を抜ける前の仲間の名前もしっかりと刻まれている。
今更、木ノ葉に戻って木ノ葉の味方をして。あの時、一度は捨てた里なのだ。仲間が必死で止めるのを、連れ戻そうとするのを拒んで大蛇丸の元へ向かったのはサスケ自身だ。
大蛇丸にどうして捨てた里にそこまでするのかと質問された時、答えることが出来なかった。同じように、サスケを連れ戻そうとした仲間もどうしてと問うだろう。それに答えられない自分が居る。だけど、この里を、木ノ葉を守りたいという気持ちは本物だ。
「ずっと……ここから…………」
木ノ葉隠れの里から。この場所から、ずっと見ていたのだろう。今までずっと。
まだサスケが下忍だった頃、周りには沢山の仲間が居た。一度は家族や一族の仲間を失った少年が忍者学校を卒業し、下忍となり新しい仲間を見つけた。同じ年に下忍になったメンバーや、同じ班になったチームメイト。自分達の進む道を手助けしてくれた上司。
その上司というのが、本当にこれでいいのかと思うような変わり者だった。任務にはいつも遅刻をしてくるような人だ。だけど、その上司は他国にまで名前を知られているほどの凄腕の忍だったりした。
そんな上司だが、実は色々と助けられていたのだと改めて考えてみるとよく分かる。修行に付き合ってくれたその人は自分のオリジナルの術をサスケに教えてくれたり、復讐を止めるようにとした一人でもあった。
「やってることが矛盾してる、って誰でも思うだろうな……」
『ま、それも仕方ないでしょ』
聞こえた声に驚いて辺りを見回す。けど、その姿を見つけることは出来ない。どこにも姿は見えなかったけれど、サスケはこの声に聞き覚えがあった。
「カカシ……!?」
記憶にある人物の名前を呼んでみれば『当たり』なんていう言葉が返ってきて気が抜けてしまう。でも、それがカカシらしいといえばその通りなわけだが。
姿が見当たらないことからして、この場に居るという訳ではなさそうだ。何かしらの方法を使って話していると考える方が良さそうだろうか。
「どうしてアンタがオレに?」
『んーそうだね。簡単に言えば、お前が大変そうだったからかな』
大変そう、ということはカカシは既に知っているのだろう。知った上でわざわざ話し掛けてきたということは、それなりの理由があったのだろう。そうでもなければこんなことをする必要がない。
「大蛇丸が木ノ葉崩しをしようとしてること、知ってるんだな?」
一応、確認するように尋ねる。返ってきた答えは予想通りのものだった。
『見てたからね。お前と大蛇丸のやり取り』
やはりそうだったか、とサスケは思う。それならあの時、一時的に肉体が戻ったのもサスケの憶測通りとみてよさそうだ。
「やっぱりアンタが力を貸したんだな。でも、どうしてだ? オレは里を裏切った人間だぞ」
『確かにお前は里を捨てた抜け忍だ。だけど、今は木ノ葉を守ろうとしてる』
「そんな簡単な話じゃないだろ。里抜けの罪は重い……」
里を裏切る。里を抜けるという罪は重い。裏切り者には死を、といっても過言ではない。追い忍なんていう組織だってあるくらいだ。今は木ノ葉を守ろうとしているからといって、それほどの罪が許されるわけがない。
ただ、サスケの場合は当時の火影である綱手が連れ戻すように任務を命じたりと本来取るべき形とは違う指示が出されていた。中にはそれに賛成しがたい人も居たようだが、五代目の考えはあくまで連れ戻すということだった。結局、それは叶わなかったけれども。
差と抜けという大きな罪があるというのに、カカシは今の様子を見て力を貸したという。
力を貸してもらえたお蔭であの場は助かった。そのことには感謝している。だけど、そう簡単に裏切り者に力を貸すことが出来るわけがないのもまた事実。
『結局のところ、教え子が可愛いからかな』
次に出た言葉に、思わず本当にそんな理由なのかと聞き返したくなってしまった。カカシの言葉は冗談なのか本気なのか分かりづらい時がある。これも一体どちらなのか。
『ま、お前も大切な人を守る力が欲しいみたいだったからね』
大切な人を、ナルトを守りたい。助けたい。
大蛇丸の攻撃がナルトに向かった時、サスケは心の底からそう思った。自分に力がないことを悔やんだ。もし肉体という体があったなら、ナルトを助ける事が出来るのにと。助けたくても助けることの出来ない悔しさ。数え切れないほどの思いがあった。
「アンタ、それで…………」
『元々、千鳥は仲間を救う為の術としてお前に教えたんだ。分かるか、サスケ』
中忍選抜試験。大蛇丸に呪印を与えられ、カカシはそれを封印すると共に自身のオリジナルの技である千鳥を教えた。
それは、復讐に使うための術ではなく仲間を救うためのもの。中忍選抜試験の時に大蛇丸が木ノ葉崩しをしかけてきた時、サスケも仲間の為に千鳥を発動させた。それこそが、カカシがサスケに千鳥を教えた目的だ。
その話はサスケもカカシから聞いている。復讐の為に使ってしまった過去もあるが、今はもうその意味もきちんと理解している。むしろ今は、以前よりもカカシの言ったことがよく分かるような気がする。
『木ノ葉を守るのもナルトを守るのもお前自身だ。サスケ、お前はどうしたい?』
カカシの質問にサスケは考える。
けれど、すぐに顔を上げた。まるで最初から答えは決まっていたかのように。
「オレは…………」
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