色々なことを学びながら二人で共に過ごしてきた日々。
 この大切な日常を壊さない為にも大蛇丸を必ず止めなければならない。今の時代で戦う術は少ないけれど、少しでも何か出来ないかと模索し過ごしてきた。いつ現れるか分からない敵を倒すために。
 そして、戦いの時は突然やってくる。



 




 大きな気配の出現にいち早く気付いたのはサスケだった。
 姿を消してから数週間。いつ仕掛けてくるのかと思っていた頃のことだ。傍に居たナルトもサスケの様子にとうとう奴が現れたのだということを知る。


「サスケ……」


 心配の色を含めた瞳が見つめてくる。それに大丈夫だと瞳で返すと「行くぞ」と気配のした方へと歩き出す。ナルトもその後を追って歩く。どこに向かっているのか、なんてことは聞かなくても分かっている。あの場所以外には考えられないから。
 二人が初めて出会った場所。大蛇丸と対立した場所。今の時代では少なくなった自然に溢れるこの場所にその姿はあった。


「二人共久し振りね」

「大蛇丸、アンタの好きにはさせない」


 辺りには緊迫した空気が流れている。それくらいはナルトにも分かる。睨み合ったまま、しかし大蛇丸の方は余裕の笑みを浮かべている。
 こっちは現代を生きる一般人のナルトと、今は肉体を持っていないかつての忍であるサスケ。大蛇丸の実力を知っている者がこの現代に居るかといえば、書物などでしか知り得ないだろうから答えは否だ。けれど仮に知っている人が居たとするなら実力差も何もかも一目瞭然の状況。


「私には私の目的があるの。邪魔はさせないわ。それに、アナタ達ではいくら知識を増やしたところで私には勝てないわよ」

「それはやってみないと分からないってばよ!」

「あら、アナタも言うようになったわね。ナルト君」


 今までであれば大蛇丸と話しているのを見ているだけだった。けれど、どんなに危険であろうと二人で乗り越えていこうと決めた。
 その為にあれから様々なことを調べてこの日に備えてきたのだ。いくら忍ではないといっても、ナルトにだって出来ることはあるはずだと努力してきたのだ。


「木ノ葉崩しは絶対にさせない。オレが……オレ達がアンタを止める」


 そう言い切ると二人は視線を交わす。前回までとは明らかに違う二人の様子に大蛇丸も吃驚する。
 以前はサスケはナルトを逃がそうと、ナルトはこの場を動かずに居ただけ。それが共闘の体制へと変わっているのだから、どうやら前よりも進歩しているらしいと感じる。


「少しは楽しませてくれそうね」


 口元に笑みを浮かべると、その腕には草薙の剣が握られる。双方とも睨み合ったまま、辺りは静寂に包まれていく。一つ風が通り過ぎ、木ノ葉が舞い落ちる。
 それを合図にしたようにどこからともなく手裏剣が飛ぶ。持ち前の運動神経でそれを避けると、今度はこちら側がクナイを投げつける。大蛇丸は自然な動きでソレをかわすものの、この時代には合わない武器に眉を顰める。


「武器を使えるのはそっちだけじゃねぇぜ」

「ただ知識を増やしただけじゃないってことかしら」


 現代にクナイや手裏剣なんてものをそこら辺で購入することなんて不可能だ。それならどうやって手に入れたのかといえば、それはサスケのかつての仲間の協力のもとだった。
 まだ忍具が残っている場所があるかもしれない、と話したサスケにすぐに探しに行こうと食いついたのはナルトだった。多分こっちの方だろうと行った先はかなりの山奥。そこを教えてくれたのは慰霊碑に行った時に会った木ノ葉の仲間だった。彼等の協力があったお蔭で、武器もなしで戦うという最悪の事態に陥らずに済んだのだ。


「ナルト!」

「分かってるってばよ!」


 次々に忍具を投げていく様は本物の忍者と変わらない。忍具の使い方を教えたのは勿論サスケだ。学校での様子や成績を知っていただけに時間がかかるだろうと思ったのだが、ナルトは意外に飲み込みが早くみるみるうちに上達していった。その成長振りにはサスケもかなり驚いていた。
 そのナルトは、サスケの力になりたいという一心で必死に修行を重ねた。チャクラを練ることが出来ないとなれば、出来ることはこれくらいだ。他にも体術くらいなら出来ないことはないとはいえ、簡単に教えて貰ったそれは防御にだけ使えとサスケに釘を刺されている。あの大蛇丸相手にまだ覚えたばかりの体術を仕掛けるなんて死ににいくのも同然だからと。
 では、どうやって攻撃をするのか。忍具だけでなんとか応戦、なんて考えているわけではない。


「やっぱり、アナタも見ているだけではないのね」


 地面を蹴る音で彼がただ指示を出すだけではないことを悟る。聞こえる足音は一つではない。精神だけの存在では地を蹴ることなど出来ない。その音はつまり、サスケが再び肉体という体を手に入れたという証拠だ。
 すぐに気付かれるとは思っていたが、相手はかつて三忍と呼ばれていただけのことはある。先程手に入れた体の変化にも一瞬で気付いた。どっちみちいずれは気付かれることなのだから特に気にする問題でもない。サスケは素早く印を結び、最後の寅の印を結び終えるとうちは一族が得意とする忍術を発動させた。


「火遁・豪火球の術!!」


 術の発動により一気に辺りは炎に包まれる。それを避けた先に仕掛けたトラップをナルトが手裏剣を投げて発動させる。後ろから飛んできたトラップを避けて移動するところを見計らい、今度はそこで体術を仕掛ける。その瞳は赤く変化している。うちはの血維限界、写輪眼。かつて、大蛇丸が欲しがったその力だ。
 サスケの体術を受け止め、最後の攻撃を受けきると互いに一定の距離まで離れる。再びやってきた均衡状態。


「思ったりもやるみたいね、アナタ達」


 この時代で暮らしている学生と、かつて忍の時代に生きていた忍者。出会ってからそれ程の時は流れていないというのに、コンビネーションも良くここまで上手く立ち回っている。どちらも互いを信頼して攻撃しているからこそなせる技だ。


「甘く見るんじゃねぇってばよ! お前みたいな奴にこの町を潰させねェ!!」

「もう忍の時代は終わったんだ。この戦いで全てを終わらせる……!」


 青と赤の瞳が真っ直ぐに大蛇丸を睨み付ける。再び動き出すとどちらも引かない攻撃が続けられる。二人で一人に向かっているとはいえハンデはナルト達側にあると思われたこの状況だったが、彼等は大蛇丸が思うよりも上手い身のこなしをしていた。その様子に大蛇丸は喉をクツクツと震わせる。
 こんな時代になったというのにまさかこうした流れになるのは予想外だ。けれど、何もなくてただ木ノ葉崩しを行うのはつまらないと思っていたところだった。


「いいわよ。もっと楽しませて頂戴」


 新たに印を結びだすのを確認して幻術を発動させる。いち早くそれに気付いたサスケは、ナルトの方に向かって走る。一般人のナルトに幻術を解除することは出来ない。急いで傍まで辿り着くなりサスケは大蛇丸の術を解く。


「大丈夫か、ナルト」


 サスケが尋ねると「平気だってばよ」と返しながら、ナルトはゆっくりと立ち上がった。しかし、ガクンと膝が落ちる。おそらく、先程の幻術で精神的ダメージを受けたのだろう。


「無理するな。少し休め」

「けど」

「オレなら大丈夫だ。そう簡単にやられたりしない」


 そう言っても渋るような表情を見せるが、サスケの実力を知らないわけじゃない。ナルトは大人しく分かったと頷いた。少しすればまた問題なく動けるようになるだろう。そうしたらまた加勢すると話すと、今度は一対一で向かい合う。
 初めて会ったときは中忍試験で敵対し、里を抜けてからは師として色んなことを学んだ。互いに相手の実力くらい分かっている。


「昔はアナタも幻術にかかっていたのにねぇ……」

「あの頃のオレとは違う。それに、アンタが知ってる頃よりもオレは強くなっている」

「私が体を手に入れてからは精神体だったのに、どうやって強くなったというの? 今のその体だって、この間の時のように一時的なものでしょう?」


 大蛇丸の言っていることは間違いではない。精神だけでは修行も何もない。それにこの体もこの場所だからこそ得ることが出来ている一時的なもので合っている。最後に会った時から実力が上がっている可能性など殆ど考えられない。
 だが、サスケは口元に笑みを浮かべたまま大蛇丸のことを見る。


「やってみれば分かるだろ」

「それなら、早いところ続きを始めましょうか」


 キン、と高い金属音がぶつかり合う音。空気が振動する。
 二人の忍がぶつかり合う。