11.



 銃撃で敵を怯ませた隙に懐に飛び込んで切り付ける。どこかで見たのと戦法としては似たものを感じるが、戦い方はまるで違う。別人なのだから当たり前だといえばそれまでだけれど、シルバーの場合は手に持っている銃がそのまま剣としても使われている。所謂双銃剣という武器だ。
 剣は短剣ほどの長さだが、これがあることで敵の中に踏み込むことが出来る。勿論銃を使った中距離からの攻撃も可能な両用武器である。ゴールドの場合はそれぞれ別の武器を両手で扱っていたが、シルバーのものはもともとそれらが組み合わさった武器になる。


「コイツ等、なんか増えてねぇ……?」

「この場所が根源だからな。多少は仕方がないことだ」


 三体は倒したはずなのに五体の魔物がいるというのは如何なものなのか。生き返っているわけでもないし、無限に出てくるわけではないから安心しろと言われてもいつまで続くんだとは思ってしまう。だが弱音を吐いている暇などなく、とにかく倒せと尤もな言葉を聞きながらゴールドもぐにゃぐにゃした物体に剣を突き刺す。


「ゴールド、四時の方角だ」

「は? 四時?」


 疑問形で返されたそれでシルバーもああそうかと気が付いた。四時というのは十二方位による方角で、東西南北でいえば東南東の方角にあたる。
 だがそれを知らないのなら意味がない。シルバーはくるりと体を捻ると、すぐに右手で東南東の方角へと銃弾を放った。大きなダメージにはならないが牽制にはなっただろう。それからシルバーはゴールドの傍に戻り、いつでも撃てるように銃を構えながら金色を見る。


「そっちでは十二方位を使わないようだな。次は普通に指示する」

「……普通って何だよ」

「右や左なら分かるだろ。オレが援護するから突っ込め」


 なんだか馬鹿にされている気がしないでもないが、ゴールド達の世界では十二方位なんて細かいものは普段使わないのだから仕様がない。まず自分自身が武器を持って戦うこともないし、ポケモンに指示を出すにしたって大抵が四方位だ。異世界というのはこういう部分にも違いが出るらしい。
 それはさておき、今は目の前の魔物を片付けるのが先である。シルバーが援護をするということは一体ずつ各個撃破でいくということだろう。残りの魔物との距離を確認しながら、まずは眼前の敵に剣を向ける。


「くらえっ!」


 叩きつけるように剣を振りおろし、一撃を与えた勢いで魔物の反対側に回る。正面には今ダメージを与えた敵、その左右から迫ってくる魔物にはシルバーが銃を撃ちながらそのまま踏み込む。


「右の奴から倒せ。そのまま前方で魔法を唱えてる奴を止めろ」


 次々に指示を出されるが、戦い慣れているシルバーの指示であればそれが正しいのだろう。こっちがどうこう考えるよりそれに従うべきだと分かっていれば、迷わずに戦うことが出来る。本当なら周りの敵のことも気にするべきなのだろうが、それは最低限にしてゴールドはシルバーに言われた通りの順番で剣を振るっていく。そちらはシルバーが上手いことやってくれると信じているから。
 そのシルバーは先程の二体に銃を撃った後、ゴールドの攻撃でダメージを受けていた魔物に剣での追撃を与えてから銃で止めを刺した。それから銃で魔物と距離をとり、ゴールドが向こうまで移動したのを確認して「下がれ」と言いながら小型の爆弾を魔物の中心に投げ込む。

 コンッとそれが地面に付いた瞬間に大きな爆発音が響く。それから爆発による煙で視界が奪われる。
 地下でこんなことして大丈夫なのかよと言いたくなったが、シルバーだってそれくらいのことは分かっているだろう。けれど、この煙では敵の位置も掴めない。どうするんだよと思っていたところで煙の中から声が聞こえる。


「ゴールド!!」


 ゆっくりとだが徐々に視界は元に戻って行く。名前を呼んだのは当然シルバーだ。この煙でも声のした方向くらいは分かる。それに視界がクリアになってくれば、薄らとではあるが敵の姿も見えてくる。


「ここだ!!」


 一筋の銀閃が宙に描かれ、ゼリー状の魔物は真っ二つになるとそのまま塵のように消えていった。辺りを見回すと、他の魔物の姿もなくなっているようだ。さっきの爆発で全部倒したのか、それとも爆発の後でシルバーが止めを刺したのかは分からないけれど、これで一応戦いは終わったらしい。
 双銃剣をしまってこちらに歩いてきたシルバーは「大丈夫か?」とこちらに手を差し出す。それを素直に受け取りながら「ああ」と答え、それから「お前は?」と聞き返せば「平気だ」と予想通りの答えが返ってきた。


「これで暫くは出てこないだろう」

「そういうものなのか?」

「理由は分からないが、いつもそうだからな」


 また襲われないとは限らないけれど、今までの経験からして数時間は出てこないはずだとシルバーは話す。少し休憩するかと気遣ってくれるのはゴールドの疲労を見て取ったからだろう。この世界で過ごす中で多少は慣れたとはいえ、素人に近いゴールドにとって戦闘はなかなかに大変なものだ。体力も気力も一回の戦闘で随分と使わされる。


「いや、それより奥に進もうぜ」

「どうせアイツ等を待つことになる。休む時間くらいあるが」

「敵が出てこないなら今のうちに進む方が良いだろ。何なら着いてから休めば良いんだし」


 ここで休もうと後で休もうと結局休むことに変わりはない。だけど今は前に進もうと言うゴールドにシルバーは溜め息を吐いた。
 その考え方が悪いとは言わない。どうせ休むのなら疲れている今休むという考えもあれば、状況によってはまずは目的地を目指すべき時だってあるだろう。どちらが正しいとは一概には言えないのかもしれない。けれど、見た目が似ているとどうしても重ねて見てしまう。


「やはりお前はアイツに似ているんだな」


 アイツというのは言わずもがな、この世界のゴールドである。別世界の同一人物なのだから似ていてもおかしくはないのだが、やっぱりゴールドだなと思う。


「少し休んだところで敵も出てこない。無理をする必要などどこにもないだろう」

「別に無理はしてねぇよ。平気だからそう言ってるだけだ」


 お互い、目の前の相手とは別世界のその人のことはよく知っている。だからなんとなく言おうとしていることも分かる。それが当たっているかは分からないが、多分そうだろうと思えるくらいの自信はある。
 だが、それでも目の前のその人は自分の知らない相手だ。いや、知らない相手という言い方では冷たく聞こえるかもしれないが、お互いのことは信用しているし気に掛けてもいる。別世界の人間だろうと彼が大切な仲間であり、友であり、相棒であることに変わりはないのだから。


「はあ、お前だってアイツに似てるよな」

「同じ人間だからな。似ていてもおかしくはない」


 言って小さく笑みを零す。偶然に偶然が重なった結果の出会い。普通では有り得ない出会いだけれど、こうして出会えたのも何かの縁なのかもしれない。別の世界に干渉してしまうほどの力のせいでお互い振り回されてはいるが、得られたものが何もないわけでもなさそうかと心の隅で思う。
 金と銀が交わる。いつも見ている色だけれど、いつも見ている色とはどこか違う色。同じようで違うのは当たり前だ。そして、本当に求めている色はこれと似ている別の色。


「だが、やっぱり同じではないな」

「オレはお前の知ってるゴールドじゃねぇからな」


 似ていると言ったり違うと言ったり、けれど言いたいことは全部分かる。この違和感の正体は、相手が別世界のその人だということ。
 もう一人の自分達はいつになったらこっちにやってくるのか。魔物と戦って結構時間は経ったと思うのだが、まだ塔の入り口付近にいるのだろうか。そんなことを考えていた時だった。


「別世界のオレを口説いてんじゃねーよ」


 覚えのある声が聞こえてきて金と銀は一斉にそちらを向く。そこには自分達と同じような瞳の色を持った人物が二人。


「そんなことするわけないだろう、お前じゃあるまい」

「オレだってしねーよ」


 なら誤解を招くような発言は止めろと、言えば誤解を招くようなことをしたのはお前だろなんてやり取りが目の前で行われる。お互いにどこまで本気なのか。次の瞬間には「遅かったな」「これでも早くした方だ」などと話しているから一連のやり取りが全部冗談だったのかもしれないけれど。
 そんな二人の様子を眺めつつ、こちらもこちらで「大丈夫か」と自分の世界の金色に問う。それに一瞬きょとんとしながらも、すぐに笑って「大丈夫だ」とゴールドは答えた。


「まだここにいるってことは、魔物でも現れたのか?」

「ああ。さっき倒し終えたところだ。暫くは心配ないだろう」

「じゃあ今のうちに――――」

「ゴールド」


 無事に合流出来たことだし後は奥に進むだけだな、となったところで呼び止められる。何だよと金が銀色を振り返れば、銀色は真面目な色で「オレも言いたいことがあるんだが」と続けた。その言いたいことの内容が思い当たったゴールドは、さっきまでクリスに色々言われたんだけどと言ってはみるもこっちはまた別だろうと返される。それはそうかもしれないが。


「つーか、お前は人のこと言えないだろ。お相子じゃねーか」

「オレはお前を押し切ったわけじゃないんだがな」


 ぐっ、と言葉に詰まったゴールドを見て「まあいい」とシルバーは自分から話を切った。それならこっちも言いたいことがあると言われるのが目に見えたからだ。
 ちらりと視線を別の金色に向け、それから「行くぞ」と言って先を歩き始めたシルバーを「待てよ」と言ってこの世界のゴールドが追い掛ける。そんな二人を見て「オレ達も行くか」と異世界から来た二人も彼等の後に続くのだった。