8.
前方と後方、それぞれに分かれて戦う。ゴールドとシルバーは二人で、こっちの世界のゴールドは一人でそれらの敵を倒していく。
やはり戦い慣れているようで、向こうは一人でも全く問題ないらしい。それどころか、時折銃でこちらの援護もしてくれる。年や背丈は変わらないはずなのに、これが経験の差なのだろう。
「よし、今だ!!」
その声に合わせるように上から思いっきり剣を振り下ろす。
すると、騒がしかった森の中に再び静寂が戻ってくる。敵は全部消えてしまって何も残っていないけれど、静かになったということは一先ず敵は倒し終えたと思って良いのだろう。
「これで暫くは大丈夫そうだな」
近くに怪しい気配も感じられない。とりあえずは終わりだなと、ゴールドは武器を収める。同じようにゴールドとシルバーの二人も剣を鞘に戻し、視線はこちらの世界のゴールドへと集まる。
「そういえば、お前も魔物が増えたことを調べていたんだったな」
「まあな」
「それなら、今の魔物のことも何か知らないのか?」
こちらの世界の二人が調査したという魔物の増加。それはアマヅキ周辺の魔物増加についてだが、現在はこのイセミオ付近でも同じような現象が確認されている。二人が調べた方の原因は古の悪魔で、その悪魔は二人が既に討伐している。だが、それがこの辺りで魔物が増えたことにも何かしら関係があったりはしないのだろうか。
そのように尋ねるシルバーに、こいつも鋭いなと思ったのはこの世界のゴールドだ。別の世界の人間とはいえ、同一人物なだけはあるといったところだろうか。
「あれも悪魔が復活した影響だな。大元を倒しても減らないってことは、原因は他にあるって考えるべきだろ。そこでさっきの話に戻るけど」
魔物が現れたことで中断されてしまった話。一体何に協力して欲しいのかという話の続きになるわけだが、ゴールドが協力して欲しいことというのは。
「例のイクツの塔でいかにも怪しいモンを見つけたんだ。けど、オレにもシルバーにも全然壊せなくてな」
「それは壊して良いものなのか……」
いきなり壊すことが前提で話が始まっているが、古い塔にある怪しい物が壊して良いものかくらい調べてあるのだろうか。それだけ歴史のある建物なら、この時代に生きている彼等には怪しく見えても歴史的価値のあるものだったりするのではないだろうか。
そんなシルバーの疑問に、あれは壊して良いものだと思うとゴールドは答える。考古学者ではないからそういうことに詳しくはないけれど、どう見てもあれが周辺に悪い影響を与えているのだと。
「悪い影響って、見て分かるモンなのか?」
「あんだけ禍々しい気配を発してれば誰にでも分かるだろうぜ」
詳しい人に調べてもらうまでもない。それでも歴史的価値があるかどうかは別問題だろうとシルバーは突っ込むが、どう見てもあれが原因なのに放っておくわけにもいかないとこちらの二人は判断した。
「調べる時間があるなら調べても良いけど、そうしてる間にもさっきみたいな魔物が増えてるんだぜ? さっさと壊すのが一番だろ」
「でも、お前等が壊せなかったモンをオレ達が協力しただけで壊せるとは思えねーけど」
協力を仰ぐのならもっと別の、例えばレッドのような実力者に頼んだ方が良いのではないだろうか。壊すことが目的だというのなら、別の世界の自分達に頼む必要はないはずだ。それよりもこの世界のことに詳しく、冒険者として多くのことを見聞きしている人達に協力してもらった方がより速い解決に繋がると思われる。
実際、壊すのに力を貸すにしても二人に出来ることは限られている。使い慣れない武器で大して戦えるわけでもなければ、力なんてたかが知れている。それは直接力を試したゴールドにだって分かっているはずだ。
「そこはオレも自信がねーんだけど、その怪しいモンがオレ達に反応してるみたいなんだよ」
だから他の誰でもなく、自分達に協力を求めることにした。第三者が触れた時には何の反応も示さないことを確認しているから間違いない。何故ゴールドとシルバーの二人にだけ反応するのかは分からなかったけれど、ここまでの経緯を振り返ってみれば思い当たる節がないとも言い切れないのだ。
イクツの塔の歴史については知らないが、古の悪魔が長年封じられていたことを考えればその為に造られた塔という可能性がまず一つ。悪魔が関わっているとすれば、その悪魔に掛けられた呪いの影響があるかもしれないというのが一つ。そして、おそらくそれが原因でやってきた別世界の人間の存在。
「お前等二人がこの世界に来た原因がそれだとすれば、逆にお前達が鍵になっているとも考えられる。だからオレはお前等を探しに来たんだ」
ちなみにシルバーは塔を調べているのだとゴールドは言った。二人を呼んでくるのに人数は要らないし、そんなことに人数を割くくらいなら少しでも解決の糸口を探す方が良い。そしてゴールドは風の噂で聞いた人物を探しにイセミオに向かう道中で二人を見つけた。
「つーワケで、イクツの塔に行きたいんだけど大丈夫か?」
出来るのなら今すぐにでも向かいたい。こうしている間にもどこかではあの魔物が現れているかもしれないし、塔に残っているシルバーのことも気になる。悪魔自体は倒したとはいえ、そんなものが封印されていた場所なのだから突然何かが起こってもおかしくない。といっても、シルバーの実力ならある程度のことならどうにでもなると思っているけれど早く戻るに越したことはない。
ゴールドとシルバーはお互いに顔を見合わせ、それからこちらの世界のゴールドに視線を戻して頷く。
「オレ達も別の町に移動しようとしてたとこだしな」
「話が終わりならさっさと行くべきだろう」
二人の返答を聞いてゴールドはほっとする。これで漸く事態が進展しそうだなと。
これでも内心では焦っていたのだ。魔物が増加したという問題を解決するために動いていたというのに、状況は良くなるどころか悪くなるばかり。解決策も見つからず行き詰まりかけていたところで、自分達に似た別の誰かの存在を知った。これで何も進展がなかったら今度こそ手詰まりだ。
この二人が鍵であって欲しいと、そう思っているのは他の誰でもない。この世界の二人だ。別の世界の自分達のためにも、そして自分自身のためにも。
「じゃあ行くとするか」
元の世界に戻るため。世界の平和を取り戻すため。
それぞれの思いを胸に、三人はこちらの世界のシルバーが待つイクツの塔へと向かうのだった。
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