9.



 整備されている街道を通って行くと時間が掛かる。

 そう言った本物の冒険者は、近道をするために森を抜けてイクツの塔を目指すと言った。当然だが、そこは整備など一切されていない山道。魔物だってどこからともなく襲いかかってくる。それも二人がDランクの依頼で倒したようなレベルのものばかりではなく、それ以上の魔物だってうろうろしているようなところだ。
 その話を聞いた時、二人は本当にそんな道を通って大丈夫なのかと不安を口にした。けれど、なんとかなるだろうと話す冒険者に不安を覚えつつもついていくことになった。


「やるんだな」


 不意に掛けられた言葉に金色が僅かに開かれる。けれどすぐに口元に笑みを浮かべて「そりゃあ本業だしな」と答えた。一週間程度しか武器に触れていないような人達に比べれば相当強いだろう。加えて彼はそれなりに実力のある冒険者だ。それはシルバー達がギルドなどで聞いた話からしても確かだ。


「けどアイツに似てるお前に言われると変な感じだな」

「へぇ、じゃあシルバーのがお前より強いんだ」

「どうしてそうなるんだよ。冒険者ランクは同じだっつーの」


 冒険者ランクというのは、ギルドに登録している冒険者の実力ごとに分けた五つの階級のことだ。上からSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランクとなっている。その中でもCランクになったばかりでDランク寄りの実力であったり、逆にもうすぐBランクに認定されるような実力を持っていたりと細かい差はあるものの大きくはこの五つに分類される。
 その中でゴールド達の冒険者ランクはBに位置づけされている。五つあるランクの中では真ん中、けれど実質はAからDまでに分けられていることを考えれば上の方だ。というのも、Sランクに認定される冒険者はほんの一握りしかいないのだ。


「でもまあ、アイツのが強いのは事実だけどな」


 てっきり否定されるんだと思ったのに意外とあっさり認められて拍子抜けする。そんな異世界の自分に、ゴールドは実力を認めないでコンビなんて組めないだろと話した。言われてみればその通りだ。お互いに相手の実力を認めていなければコンビネーションも何もない。すぐに追い越してやるけど、と付け加えるあたりライバル心もあるようだがそれも当たり前だろう。
 自分と同じ年齢で自分よりも実力が上の相手。そんな相手がすぐ傍にいて負けたくないと思うのは当然のことだ。だからこそゴールドも諦めずに何度もシルバーにバトルを挑んでいる。


「そういえば、こっちのシルバーってどんな感じなんだ?」

「どんなって言われてもな……そんな変わらんねーんじゃね? オレ達もそこまで違わないだろ」


 かといって全く同じというわけではないだろうが、少なくとも見た目に関しては瓜二つだ。それはシルバーにしても同じで、性格については異世界のシルバーのことをそれほど知らないから何ともいえない。だけどそんなには違わないだろうと思うのは、その少ないやり取りで見聞きした情報から考えた結果だ。


「ま、アイツのことは会えばすぐにでも分かだろうぜ。そのためにも早くここを抜けねーとな」


 言いながらガサッと音のした茂みに一発銃を撃った。それをかわすように飛び出てきた小型魔獣までの距離を一気に詰めると、今度は右手の剣で切り付ける。これで何体目になるのかはもう数えていない。そもそも最初から数える気もない。こういう道を選んだ時点でこうなることは分かっていたのだから。
 こうしてさっと倒すことの出来る敵もいれば、全員で協力して叩かなければならないような大型の魔物にも遭遇した。ゴールドが言ったように今のところはなんとかなっているが、ここを抜けるまではずっとこんな感じなのだろう。


「ところで、気になっていたんだが」

「何だ?」

「お前はオレ達に会う前もここを通って来たのか?」


 イクツの塔からイセミオまで街道を通るのでは時間が掛かるのだろう。だからこそ今もこうして森を抜けているわけで、それなら二人を探していた時もここを通ってきたというのだろうか。
 純粋に疑問に思ったことをシルバーが口にすれば、ゴールドは平然と「そうだけど」と答えた。つまり、彼はたった一人でこの道を一度通っているらしい。


「つっても、ヤバい奴と会った時は逃げたけどな」


 それでも一人でここを通り抜けたことに変わりはない。シルバーが一緒ならソイツ等とも戦ったと言っているから相当信頼しているのだろう。そしてやっぱり彼は強いのだ。なんとかなると言えるのもこの実力があってこそか、とシルバーは心の内でこっそり思う。


「オレも気になってたんだけど、お前等は何で剣を使うことにしたんだ?」


 武器にも多くの種類がある。剣に銃、槍、斧や弓に手甲など、他にも多種多様な武器があるのだ。剣と一言で言っても大剣や双剣、短刀や太刀など幾つもの種類に分けられる。それほど多くの武器が溢れている世界で、どうして二人共が剣を選んだのかゴールドも興味があった。


「何でって、どれも使ったことなかったから一番使いやすそうなのを選んだだけだけど」

「それで剣か。確かに無難といえば無難かもな」


 それだけ武器に種類がある中で、一番需要が多いのもやはり剣だ。一般人が護身用に持つとしても短刀や小型の銃辺りが多いだろう。ギルドに登録している冒険者でも剣を扱っている人の割合は多い。といっても割合的に多いというだけで、この世界では色んな武器を身に付けている同業者に出会う。こんなもので戦うのかと思わされることもしばしばだ。


「だがお前も剣を使っているだろう。それに銃も。どうして二つの武器を同時に使おうと思ったんだ?」


 普通は剣か銃、どちらか片方を選ぶのではないだろうか。二つの武器を扱うにしても剣と剣や銃と銃、同じものを二つ扱うようなイメージがある。けれど、ゴールドの場合は剣と銃を右と左でそれぞれ使い分けている。シルバーはこの世界のことに詳しくはないが、別の武器を同時に扱おうと思うことは普通ではない気がするのだがという意味合いで尋ねる。


「ああ、これか。別に深い意味はねーよ。父さんと母さんがそれぞれ剣と銃を使ってたってだけ」


 だからオレはその両方を使うようになったんだ、という話をそうなんだと納得して良いものだろうか。ゴールドの言っていることは分かるが、それならその二つを別々で使い分けるといった方法もあったはずだ。
 それを二つ同時に使うことにしたのはどうしてなのかという部分が今度は気になるが、聞けばその方が戦いやすいと返ってきたからそれ以上聞くのは諦めた。いや、おそらく本人は本当にそう思っているのだろう。そうでなければその戦闘スタイルでいるわけがない。


「ってか、お前には言われたくないんだけど」

「は?」

「あ、いや。こっちの話」


 ゴールドの言葉にシルバーが疑問符を浮かべるが、すぐに話を終わらせられた。しかし、このゴールドが言おうとしたことの意味ならすぐに分かった。こっちの話というのはつまり、こちらの世界のシルバーの話と言うことなのだろう。それでこの発言だとすれば、こちらのシルバーが使っている武器もあまり見掛けないようなものということなのだろうか。


「さてと、そろそろ森も抜けるな。ここを抜けたらアマヅキを通って塔に向かうぜ」


 看板も何も立っていないけれど道のりはしっかり頭に入っているらしい。まだ辺りは木に囲まれているけれど、ゴールドが言うのだからもうすぐでこの森も終わりが見えてくるのだろう。
 森を抜け、アマヅキの町を通り、それから更に北へ進んだところに建つイクツの塔。そこに辿り着くまであともう少し。